ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

裁判傍聴

犯罪者を見てみたい。どんな人が犯罪を起こすのか、その興味からいつかは裁判を傍聴してみたいと思っていた。街を歩いている時、これまで何人もの犯罪者とすれ違っているだろうと思うが、それでも自分の周囲に犯罪者がおらず、Sレアカードのような希少さを感じている。

たまたま休みとなった平日に広島地方裁判所へ行ってきた。裁判は10:00~17:00の間に行われる。何の裁判が行われるかはネットでは公開しておらず、開庁時間の8時以降、現地にて公開される開廷表を確認する必要がある。という事前情報を元に、少し緊張しながら10:00に裁判所へ。裁判所周辺は弁護士会館をはじめ、法律事務所が多数あった。玄関を入り、右手の受付をスルーした右側に本日の開廷表があった。開廷表は刑事裁判と民事裁判の2つが別々のクリアファイルで分けられていた。刑事裁判は本日2件のみ、どちらも304法廷室で行われる。20枚はファイリングできるものだったから、この日は裁判が少ない1日だったのだろう。

13:30~の開廷まで雨の降る縮景園などで時間を潰し、13:00再訪。3階の304法廷室へ。広い廊下の両サイドに法廷室が配置されていた。撮影NGの張り紙あり。13:20に女性が1人やってきて、304法廷室に入る。どこかのドアの鍵がカチャっと開く音がする。その後もう1人女性が入った後、「傍聴席入口」から僕も入室。傍聴席には誰もいなかったが、法廷には中央と両翼に1人ずつ、計3人の女性がいた。後から分かったが、左翼が弁護人、右翼が検察官、中央が書記官だった。そわそわと落ち着かずその様子を絵に描いていたところ、左翼側の扉から刑務官2人にはさまれる形で被告人が入室。腰に巻かれていた縄と手錠を外した後、着席。ついに犯罪者(実際はまだ被告人ではあるが)と言うものを見た。70代くらいだろうか。酷く痩せ、短髪の白髪も頭頂部はほぼ禿げている男性。健康そうではない。その後すぐに書記官の後ろの大きな扉から裁判長入室。傍聴人以外は起立し、裁判長へ一礼。13:30、裁判が始まった。

平成28年(わ)第XXX号等 罪状:覚せい剤取締法

裁判は下記1~10の流れで進められた。

  1. 裁判長より、被告人に対し自己紹介(名前、住所、本籍地など)を要求。
  2. 検察より、起訴内容(事件のあらすじと罪状)の説明
  3. 裁判長より、被告人に対し裁判の注意事項の説明(終始黙ってもあなたが不利になることはありません、ただし発言する場合はあなたに責任が伴います、といったこと)
  4. 裁判長より、被告人に対し2に間違いが無いか確認
  5. 検察から被告人への質問
  6. 裁判長から被告人への質問
  7. 検察から裁判長への求刑内容提示
  8. 弁護人から裁判長へ6の訂正内容提示
  9. 裁判長による判決日の日程調整(検察官、弁護人に確認)
  10. 閉廷

上記の流れの中で2つの物語が展開されることになる。1つは「事件」に関する物語、もう1つは「被告人」に関する物語だ。本件の場合、被告人が知人に貸した金の担保として受け取った覚せい剤を、その後小分けにして男性1人に売りさばいたことが「事件」の物語。そしてその後に続くのが「被告人」の物語だが、ここでこの事件の背景が明らかになっていく。

被告人は67才。2年前に知人女性のアオイ(※仮名にしてます)から30万円の無心を受ける。胃がんで働けず、生活保護を受けていた被告人は、人にお金を借りてまで26万円を用意し、アオイに渡す。その際、担保を取るつもりは無かったものの、アオイが用意していたため担保(覚せい剤)を深く考えることなく受け取った。その後、金を返してもらうためアオイに連絡するも繋がらず、そうして過ごすうちに、よく行っていた喫茶店で、他人の会話からマコ(アオイのセカンドネーム)が自殺したことを知る。毎月11万5千円の生活保護(家賃は25,000円)では生活が厳しく、アオイから受け取っていた覚せい剤を生活の足しにしようと、覚せい剤を0.1gずつ小袋に分け(24袋)、それを知人の男性Aに売る。Aは覚せい剤が欲しくなると被告人に電話し、売買は被告人の家で行われていた。その後Aが捕まり、足がついた被告人も家宅捜索を受け逮捕となる。

「被告人」の物語は事件とは直接関係しないところにも拡がる。大学中退、離婚歴があり、20年前には5人いた兄弟から縁を切られていること。一番つらいことは子供にも縁を切られたこと。自分自身のことは「最低の人間だと思う」。質問には上がらなかったが、アオイに対して特別な想いを持っていたのではないかとも思う。そのように被告人の生活や身を置く環境を知っていく中で、骨しか見えなかった事件に肉が付き、そこに血が通うような実体の拡がりを感じた。

検察は再発の可能性が高いため懲役1年6ヶ月、弁護人は逆に可能性は低いからと執行猶予付きを求めた。最後に言い残したことは無いかと裁判長に問われた被告人は、「ありません」と言った後、今日一番の声量で「真面目に暮らしていきます」と付け加えた。最終的に、傍聴席には8人くらいいたと思われる(皆、僕より後ろに座ったためはっきりわからない)。予定通り14:10に閉廷。

平成28年(わ)第XXX号等 罪状:強制わいせつ

14:20より次なる裁判。事件のあらすじは、午後11時過ぎ、帰宅中の25才女性の背後から抱きつく。女性が倒れたところで女性の足に触り、「殺すぞ」と脅した上で女性の陰部に指を入れ、左胸を揉んだ、というのもの。1つ前の覚せい剤の裁判では、検察が説明する起訴内容に被告人も弁護人も間違いないことを認めたが、本件では認めなかった。被告人が言うには、抱きついたところまでで止めており、殺すぞとも言っていないし、それ以降の行為もしていないとのこと。なお、被告人は現在25、6才、高校を中退しとび職をやっていたが、現在無職(犯行時がどうだったかは不明)、驚くことに婚約中の女性とその家族と同居していたという。

この後、検察より被害者への聞き取り内容や現場検証時のレポートが裁判長に説明される。被害者女性からの聞き取りコメントを読み上げていたが、被害者自身も抱きつかれたとまでしか言っていない…。起訴内容の説明の際の陰部云々の話はどこから出てきたのだろう、別の聞き取り時だろうか、どういうことなのかよくわからなかった。

この検察からの説明が終わると、次回公判日の日程を調整して早々に閉廷となった。被告人が一部起訴内容を認めなかったことを受け、次回以降にまたはっきりさせていきましょう、ということなんだろうか。予定通り14:40に閉廷。しかし、1つ前の裁判も含めなぜ予定通りに終わるのだろう、延長など発生しないのか、事前に打合せしとくのだろうか。謎が多い。

閉廷後、刑務官から手錠をかけられ縄を巻かれている被告人に対し、弁護人が2言ほど声をかけていたが、それに頷く被告人の様子はどこにでもいる青年と同じだった。この光景は印象的で、犯罪者はSレアかもしれないけど、どこにでもいる青年(人)が犯罪者になり得るんだと感じた。あと、閉廷後に弁護人と話していた傍聴席の女性は、恐らく青年の母親だろう。哀しい光景だった。

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傍聴席でのメモ

傍聴を終えて

念願だった傍聴を終えたものの、晴れやかな気分はどこにも無かった。一連のやり取りから実体化される物語は、不謹慎だが息をのむ面白さも感じた。ただ、この物語が事実であることは、物語としての面白味を高める一方で、被告人の環境への同情や被害者の苦しみも心に生まれ、淀み、暗い気にもさせる。

そして、実際に傍聴席に座ったからこそ気付き、納得したことがある。被告人の顔を直視することができなかった。理由は2つ。刑務官に挟まれ、自由な発言と行動を制限され、悲壮感に包まれた被告人を見て、こんな姿など今すぐにでも消し去りたいだろうなと考えたから。もう1つは、単純に怖かったからである。何ならこれが理由の大部分を占めている。報復が怖い。顔を覚えられて、何かあったら…などと考えると見れなかった。

裁判所から歩いて帰る途中、どこかで転んだのか背中が不自然に濡れ、フラフラ歩いている近寄りがたいおじいさんを見て思う。特に1件目の裁判の被告人だが、社会的に弱い立場の人間である。誰からも守られず、自らも守れない弱い立場の人間が罪を犯す可能性が高くなるのかなと。弱い立場になるのは、これまでの自身の生き方に問題があり、誰のせいでもなく自分の責任(自業自得)である。この考えは変わらない。ただ、周りにいる人間がそんな環境から救うきっかけとなる可能性も当然ある。声をかけるだけでも良い、何か変わるかもしれない。「DOGLEGS」という映画を見た時にも思ったことだが、人に自分の存在を意識してもらえる(気にかけてもらえる)ことは、精神面において良薬となる。その点で、自分も人を救える可能性はある、ということを意識しておきたい(それが使命とは絶対に思わないようにしたいが)。フラフラおじいさんに一声かけとけば良かった、次回は、アタックだ、いや、タックルだ。