ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

なぜ「生茶」ばかり買ってしまうのか

別に「生茶」の味が好きなわけではない。「綾鷹」でも「お~いお茶」でも何でも良い。味の好みを言えるほど、味の違いを感じていないしそもそも意識したこともない。なのに、ふと僕の机の上には「生茶」しかないことに気付く。どういうことなのか。呪われているのか。面白いので理由を探ることにした。

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ふと机の上に「生茶」しかないことに気付き、思わず写真を撮った

何が僕に生茶を買わせているのか。今回は他商品と比較する形で僕にとっての生茶の魅力を調べていく。比較するのは、緑茶飲料界の販売本数上位4ブランド「お~いお茶」「綾鷹」「伊右衛門」「生茶」で、それぞれ中身(味)と外見(見た目)の特徴を見る。 ※比較するとか偉そうに言ってますが、個人の主観ですので許してください。

中身を比べる

まずは味比べ。全国茶品評会での評価項目を参考に、下記4点を見る。

  • 滋味
    • 甘味、渋味、苦味と旨味が適当な濃さで調和したもの
    • 口の中に清涼感を与えるもの
  • 喉越し
    • 舌にまろやかに当たり喉越しがよいもの
  • 水色
    • 黄緑色で明るく澄み、濃度感のあるもの
    • 赤み、黒みなど水色の美しさを邪魔する色が混ざっていないもの
  • 香気
    • 爽快な若芽の香り、新鮮味ある香りのあるもの
    • 青臭さ、油臭、こげ臭のないもの

集計結果をまとめたものが下記の表となる。

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総合点では伊右衛門が一歩リードしたものの、どの商品もほぼ変わらない点数となった。と言うか、4つの項目で点数をつけてはみたものの、正直差など感じず辛い作業だった。明確な違いを見出せないため、採点表には3と4ばかり並んでいる。つまり僕の中で商品ごとの好き嫌いは存在せず、どれでも良い、全てが横一線ということがわかった。

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お~いお茶は透明度が高く、生茶は濁りが強い。味の違いはわからない。

外見を比べる

中身の差は無かった。次は外見、つまりペットボトルの形状、パッケージのデザインを比べる。結論を言えば、「生茶」と「伊右衛門」に心が動いた。それぞれの外観に受ける印象は下記のとおり。

「お~いお茶」の外見

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ボトルの中央にややくびれがあり、竹を模したパッケージデザイン。他3商品は商品ロゴの書体などから、伝統や職人の仕事感、侘び寂びの雰囲気を感じるが、本商品はそれを狙っていないようだ。逆に、昔から変わらないロゴがデザインの中心にあることで、懐かしさや親しみを感じる(昔からある駅弁のパッケージを見る感覚に近い)。ブランドサイトを見ると、中味に関するこだわりはひしひし伝わるものの、外見に関する記述はごく僅か。なぜ竹なのかは、下記のように述べられている。

古来より竹を水筒に用いていた感覚を取り入れ、容器全体を竹柄のデザインとしました。
参照:「お~いお茶」さらなるおいしさの秘密 | 伊藤園 緑茶飲料発売30周年 特設ページ

綾鷹」の外見

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特徴的なボトルの形状。熱々の飴から空気を抜く時のひねり具合を感じる(酷い説明ですが)。パッケージは湯呑を模したもの。口縁下に垂れる釉薬と貫入が描かれているが、ただどうしても湯呑に見えない。ひねりのあるボトルの形状と細長さ、そしてこの釉薬の色味である。緑釉、或いは織部釉として、こんなにも濃淡の無い無表情な湯呑になろうか。焼き物として違和感があるし、魅力がない。さらには、商品名を見せるために白の矩形が大きく配置されていること、文字を読ませるため貫入の上から不自然にテクスチャが敷かれていることも湯呑らしさから遠ざける要因であり、かつそれらの処理にお粗末さを感じる。
ボトルやパッケージデザインについて、開発ストーリーではこう紹介されている。

「伝統的な湯呑みは手づくりなので、凹凸があって左右非対称で、持ったときに手にぴたっとはまる。人間の手の形状を考え抜いた上での、細かい心配りが反映されたデザインです。これこそ、『もてなしの心』が形になったものだと思いました。それで今回のリニューアルでは、湯呑みに見立てたPETボトルをつくろうと決めたのです」

「ピカピカのプラスチックのラベルではなく、マットコートをかけることで、PETボトルを持ったときに『和』の雰囲気を感じてもらうようにしました。さらに、にごりが舞う様子を表現するために下にいくほど色が濃くなるようにグラデーションを入れました。そうした細かい要素を積み重ねた結果、『急須でいれたような味わい』がパッケージからも直感的に伝わるようになったのです。」
参照:「お茶のこころ」を伝えるために── 新生「綾鷹」、常識破りのPETボトル開発[後篇]: The Coca-Cola Company

言いたいことは、湯呑を模したこのパッケージの魅力がよくわからないということ。確かに、触っただけで綾鷹だとわかるし、持ちやすさのメリットもある。が、湯呑の見た目は再現できても、湯呑の持つ「もてなしの心」をペットボトルで再現できるとは思えない。消費者に伝わっているのだろうか。全然話は変わるが、デザインを担当した女性が綺麗。

伊右衛門」の外見

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おーいお茶同様中心がくびれた形状だが、こちらはよりスリムな印象。竹の節に見立てた出っ張りも無く、筆でスッと払ったようなてらいの無い曲線である。綾鷹、お~いお茶と違い、実物の何かをそのまま再現するようなデザインではなく、竹の繊維を思わせるような縦のラインがうっすらと透けている。パッケージの上下は緩やかに色が抜かれ、お茶の色がグラデーションとなって目に映る。美しい。彩度の低いパッケージの緑に飾り気の無い白抜き文字が並び、清白な印象。
デザインに関する担当者の思いは明快で、僕もまんまと狙い撃ちされている。

「お客様がイメージするおいしいお茶のイメージは、白磁の湯呑みにきれいな緑色のグラデーションの水色。それを直観的に感じてもらえるように」と五十嵐氏が言う通り、デザインカラーも中心に向かって緑が深くなっていくグラデーションとなっており、ボトル全体として湯呑みに入った煎茶の再現を狙っている。

竹のモチーフを継承した点については、「発売時からこれまでも節の形などでリアルな竹を連想させていましたが、同じような形が増えてきたことで、ペットボトルの代表形状のようになってしまい、もはや竹だと思われることが少なくなっていた」と従来ボトルの問題点を明かす。新デザインは日本的な様式美も意識した装飾を極力削ぎ落としたシンプルさで、実は遊び心も散りばめられている。
参照:緑茶業界のメガブランド「伊右衛門」が大リニューアルをする理由 | NewsWalker

生茶」の外見

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くびれもねじれも無く、ワインボトルをそのまま小さくしたような形状。初見であればガラスと見間違えてもおかしくない。他3商品が竹や湯呑をデザインに取り入れているのに対し、本商品は一切それがない。彩度が低く、落ち着いた緑一色である。そこに線の細い現代的な家紋のようなマークと白抜きの商品ロゴのみ。情報量が少なく余白も広いため、商品ロゴもパッケージの緑も一目見てすぐ頭で認識される。そしてこの緑がとても妖しい。沈殿する茶葉をイメージさせる下部の微妙な加減のグラデーション、マットコート処理された表明にぼんやり浮かぶ光沢、ボトルの中身が微妙に透けて見えるような覗きたくなるようなフィルム、それらが重なって思わず本商品を触ってみたくなるのだ。

デザインに関する担当者の話を見てみると、「伊右衛門」同様まんまと狙いにはまっている。つまり担当者の意図が消費者である僕に伝わった形である。なお、生茶日本パッケージデザイン大賞2017で金賞を獲得している。

和モダンなスタイルでいつでも持ち歩いて、緑茶を楽しみたくなるスタイリッシュなボトルです。今のくらしに合う緑茶の容器を考え、ワインボトルをモチーフに一から開発しました。
生茶シンプルなグリーン一色のデザインでお茶のいいところ”まるごと”ギュッとつまった緑茶を表現しました。パッケージのグリーンは、中身の色と透明感のあるフィルムの色を組み合わせることで実現しました
参照:生茶について|生茶|ソフトドリンク|キリン

なぜ「生茶」を選ぶのか 

ここまで中身と外見についてそれぞれの商品を比較しながら理由を探ってきた。中身の部分では差が見えなかったものの、外見では「伊右衛門」と「生茶」に良さを感じた。ではなぜ、「伊右衛門」ではなく「生茶」を選ぶのか。それは、4つの商品の中で唯一「生茶」にのみ「触ってみたい」と感じたからだと思う。僕のようにどの緑茶でも構わない人間からすれば、触りたいと思いその商品を手に取った時点で=購入となる(他の商品に持ち換えるのが面倒+その必要性がない)。その結果、僕の机が生茶だらけになったと言える。

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工学博士で人型ロボットを作られている石黒浩さんの本の中で、2つ以上のモダリティ(視覚、聴覚、触覚など様々な感覚を指す)が絡むと存在が立つ、というような話があった。声+触感が人間のそれであれば、例えぬいぐるみであっても人はそこに人間の存在を感じるのだそう。それを踏まえると、視覚だけでなく触覚にも訴えるパッケージであった「生茶」の存在が、僕の中では際立っていたのだろう。

ちなみに、緑茶飲料上位4ブランドの販売数量割合で見ると、生茶は最も低く約12%(2017年夏時点)※1。ただし、生茶は2016年3月のリニューアル以降販売好調のようで、2017年7月にも年間販売目標を上方修正するリリース※2が出ている。
※1 緑茶飲料の上位4ブランドにおける販売数量割合
※2 「キリン 生茶」の年間販売目標を上方修正