ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

裁判傍聴2(福岡地裁/窃盗)

窃盗罪。その裁判傍聴のため福岡地裁へ行ってきた。前日は、同じく傍聴のため広島地裁を訪れたが、まさかの裁判無し。2日連続で裁判所まで行ってただ帰るだけの散歩は避けたい、てことで福岡地裁に裁判の有無を確認(電話:092-781-3141)したところ、広報の方が開廷時間まで教えてくださった。そこで案内されたのが、午後開廷の窃盗事件の審理だった。

f:id:lomotani:20180523224652j:plainとある平日の午後、福岡地方裁判所

「平成29年(わ)第1448号等 窃盗」。13時15分開廷のその裁判は、傍聴席(20席)が満席となった。事件関係者だけでなく、某新聞社の腕章をつけた記者らしき方もいた。あとで知ったが、この事件は、窃盗とは無縁に思われる被告人の職業+夫婦での犯行+3回目の逮捕...と言う要素が重なっており、ネット上で話題になっているものだった。

事件のあらすじと報道内容

福岡県内のスーパーなどで、高級食材を盗んだ容疑で夫婦を逮捕。被告人はA太(35)とB子(28)で、A太は大分県の医師(研修医)、B子は大学院生。2017年10月25日の逮捕から勾留が続き、その間に同容疑で2度の再逮捕(11月15日、12月7日)となっている。

  • 夫婦は窃盗に関する起訴内容を認めている
  • 1度目の逮捕はスーパー(福岡県福岡市)で約22,000円相当の品を万引き。2度目の逮捕は1度目と同じ店舗での犯行で、被害額は約25,000円。3度目の逮捕はコストコ(福岡県糟屋郡)で被害額は約87万円。
  • 松坂牛、プレミア焼酎、ダウンジャケットなどを万引き
  • 防犯カメラに夫婦の犯行が映っていた
  • 盗んだ商品は自分たちで食べる(消費する)つもりだった
  • 自宅から日本酒80本や複数の商品が見つかる
  • 窃盗品は夫婦の結婚式の返礼品にも使用
  • A太は2017年4月1日から研修医として勤務
  • A太の給料は33万程度と推定

ネット上の反応

  • 35歳で研修医?遅くない?
  • なにこれ転売目的?ただの窃盗とは思えない
  • もしかしたらクレプトマニア?
  • 学校の勉強はできても、一般教養のダメなタイプ。嫁さんも一緒にってのがすごい!
  • 医道審査会行きかなぁ。窃盗なら業務停止くらい?
  • 医師免許剥奪はあり得んだろ 病院はクビになるかもしれんが
  • 一番かわいそうなのは親ではないでしょうか。

傍聴の記録

f:id:lomotani:20180602135852j:plain法廷内の様子

以下は、証人、被告人等の裁判内での発言の記録である。A太父→B子父→B子→A太の順で供述。傍聴席にはA太両親、B子両親やその親族らしき方の姿が見えたが、両家が互いに話す光景は見られなかった。

A太父の証言など

  • 小学校高学年からA太の万引きが始まり、以降繰り返された
  • 万引きの度に(A太父が)被害店舗に行き弁済、謝罪
  • 病院に連れて行ったが治らなかった
  • 2015年に精神科に連れて行き、「窃盗症」の診断
  • 2017年3月9日を最後にA太は精神科での治療を止めており、(A太父は)それを知らなかった
  • 2017年の逮捕後、精神科から群馬県赤城高原ホスピタル(以下、赤城)を紹介される
  • A太勾留中、A太父にて赤城への入院を予約
  • A太勾留中のため、赤城からのアンケートに回答する形で診断
  • 赤城の診断は、「窃盗症(クレプトマニア)」、「摂食障害
  • 医師の試験合格という成功体験によって、A太の悪癖は克服されると考えていた
  • 今後は治療を最優先にする。今までは(A太父の)考えが甘かった
  • A太は勤務先の病院を自主退職
  • 勤務先病院から言われたわけではなく、勾留により勤務が出来なくなったためA太の判断で退職。
  • A太が勾留中だったため、退職の手続きはA太父が対応
  • 週1回、勾留中のA太を面会訪問、A太父の目には反省しているように見えた
  • A太は被害者に謝罪文を送った
  • 父として無念の気持ち。A太に対しては不憫な気持ち
  • (A太父としては)医師免許がはく奪されなければ良いとは思っている
  • 2017年10月にA太とB子は挙式
  • A太は、大学卒業後6年間は窃盗癖は表面化しなかった
  • ただし、その6年間はうつ病にかかっており、治療に専念していた

B子父の証言など

  • 2017年10月25日、夕方のTVのニュースで娘の犯行を知った。全く信じられなかった
  • A太とB子が2人でいると再犯の可能性があるため、婚姻の継続は難しいと考えている
  • A太の犯罪歴は、事件発覚後、A太父からの手紙で知った
  • 現在、B子は実家にて同居中
  • 現在、B子の買い物はネット通販で済ませるようにさせている
  • 極力商業施設等には行かせないようにしているが、行く場合は財布だけを持たせ、無くなった(使った)金額と、買った商品とで差が無いかチェックしている
  • B子とは事件の話をあまりしない
  • B子弟も窃盗に関する事情聴取を受けている
  • B子が窃盗を犯したのはA太の影響とは考えていない
  • 結果的に犯罪は起きてしまったが、A太やB子に問題があったか、は考えていない

B子の供述など

  • (B子自身の)初めての万引きは2年前(2016年)
  • 万引きを始めたきっかけは、スーパーで長蛇の列に並んでいた際、目の前の人が列を離れて万引きする様子を目撃したこと
  • 何を盗るかは事前に考えてはいない。衝動的に盗る
  • 犯行後、盗ったものには興味がなくなり、帰宅後も手を触れていない
  • 事件当日のA太とのやり取りは覚えていない
  • 勾留中に考えていたことは「とんでもないことをした、申し訳ないことをした」
  • 保釈後は、規則正しい生活を心がけている
  • 現在、自助グループの活動への参加や、カウンセリングに通っている
  • 現在の治療の内容は、目標とした日まで万引きをしなかった → クリア、を繰り返し自信をつけるというもの
  • A太の前科は逮捕後、担当刑事から聞かされた
  • A太とは離婚する考え
  • 勾留中は時計が無く、夜中目が覚めても時間がわからない環境が不安で辛かった
  • 勾留中にこけてケガをした(※左腕に打撲〇箇所、などB子は詳細に記憶していた)
  • ケガをしたため、刑務官に湿布をくれるよう何度も求めたがくれなかった
  • (検察官:「2017年3月に窃盗品の日焼け止めをオークションに出品してないか」)→ 答えたくありません
  • コストコで盗った16着のダウンジャケットは、サイズがバラバラ
  • 感情の起伏が激しく、A太との生活の中で家を飛び出したり、包丁を振り回したりすることがあった
  • (包丁を振り回した背景には)流産があり、自分も死のうと思っていた
  • 今後A太と連絡を取ることは無いと思う
  • (松坂牛などの高級品を盗ったのは)食べたい、欲しい、の他、珍しいものを手に入れることに高揚感を感じるため
  • お店の中で「今日は(窃盗を)やめよう」と夫婦間で話すこともあった

A太の供述など

f:id:lomotani:20180602135708j:plainA太被告の後ろ姿

  • 学生時代、万引きが理由で停学になったり、塾を辞めさせられた
  • 執行猶予中に再犯すると、罪が重くなることを理解していなかった
  • B子は幻覚、幻聴の症状がある
  • B子は暴行癖があり、機嫌を損ねないよう(自分は)言われるがままに従っていた
  • 万引きする時は「(B子の機嫌を損ねないよう)何とかするので精いっぱい」
  • 夫婦の最初の犯行は、神社のおみくじをお金が無くなっても引き続けたこと
  • 2018年2月28日に勤務先を自主退職。そうしなければ、懲戒解雇と言われていた
  • 医師免許がはく奪されるかはわからない
  • 150日間勾留した
  • 自分は誹謗中傷にさらされ、社会的制裁も受けている
  • 自分に欠けているのは、相手の立場になって考えること
  • 窃盗したお酒を自分たちの結婚式で出した(※恐らく返礼品として)
  • (検察官:「『コストコIKEA天誅だ』とLINEでB子に送っていないか」)→ 記憶にない
  • (検察官:「ダウンジャケットは16着盗ったはずが、部屋には15着しかなかったのは何故か」)→ 何かの間違いだと思う
  • 日焼け止め29点も万引き
  • (検察官:「万引きした日焼け止めをネットオークションに出品していないか」)→ 出品していない
  • (検察官:「日焼け止めの商品画像が、(A太の)スマートフォンで複数枚撮られているが何のためか)→ 記憶にない
  • (検察官:「『送料無料でも元は取れる』というメールをB子に送っていないか」)→ 記憶にない
  • 同じ過ちを繰り返すのは、精神疾患と考えている
  • 精神疾患の判断基準であるDSM-5の存在を知っている
  • (検察官:「食べたい、飲みたい、という自ら消費する目的で盗った場合、DSM-5では精神疾患とは認めらていないが、どう考えるか」)→ ・・・。
  • 研修医としての手取りは17万円
  • 2015年6月にB子は仕事を辞めた
  • 検察官:「生活が厳しかったのではないか」
  • 裁判長:「奥さんの機嫌を損ねないように、という話があったが、防犯カメラの映像を見てもそのようには見えなかった」

傍聴を終えて

最初に「ネット上の反応」をいくつか取り上げたが、そこで出ている疑問(意見)に対する答え(背景)が、4人の供述からぼんやり見えてきたように思う。
前回の傍聴記録にも書いたが、傍聴の中では「事件に関する物語(話)」と「被告人に関する物語(話)」を知ることになる。事件に関する物語は報道でもおよそ知ることができるが、被告人に関する物語はプライバシーの点からも表に出にくく、世間では意識されないか、或いは推測で(大小の偏見も含みながら)語られることが多いように思う。

傍聴が良いのは、推測ではない、事実としての「被告人に関する物語」を知ることができる点だ。それがどう「事件に関する物語」と絡んでいくかを聞いていると、骨に肉が付き血が通うような、生々しい事件の広がりを感じる。傍聴席には、ここにしかない面白さと憂鬱さがある。

とは言うものの、13:15~17:00の約4時間、被告人の供述の所々に違和感を覚えながらの今回の傍聴はかなり疲れた。