ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

4年に1度の「塩原の大山供養田植」を見る(動画あり)

4年に1度しか開催されない祭典が広島にある。国の重要無形民俗文化財にも指定されている「塩原の大山供養田植」だ。「供養」と「田植え」。ならば、たいまつ片手に裸の男衆が暗闇を走り回るような祭典ではなかろうな…と直前まで行くか迷ったが、背中を押したのは「4年に1度」と言うパワーワード。この強力な引きにやられて行ってきた。

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歌に合わせて太鼓をたたく「サゲ」という男たち。
太鼓は手で持たず、太鼓の側面に括りつけた布を身体に巻きつけて固定している。

塩原の大山供養田植(しおばらのだいせんくようたうえ)
不慮の死に見舞われた牛馬の霊を供養し、現在飼育している牛馬の安全と五穀豊穣・家内安全を願う祭りで、「田植え踊り」、「供養行事(棚くぐり)」、「しろかき」、「太鼓田植」、「お札納め」の5つの行事で構成されている。かつては不定期に公開されていたが、平成10年から4年に1回の現地公開をしている。
- 平成27年4月1日発行『小奴可の里お宝ガイドブック』より

祭典は上記のように紹介されている。2018年は5月27日(日)に開催。舞台は広島県庄原市東城町にある塩原(しおはら)。すぐ東は岡山、すぐ北は鳥取で、なかなか行くことの無い山間の地域である。広島市(横川)から車で約2時間、さらにそこからシャトルバスに揺られること10分、ようやく会場に到着した。
バスから降りて気付いたことが2つ。1つは、辺り一面が田んぼに囲まれていること。もう1つは、自分と同じ30代くらいの人の姿が見えず、60代以上の割合が恐らく90%を超えていたこと。緑とシニアに四方を囲まれる。

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田園風景

  • 10:30~11:00 受付
  • 11:00~12:00 開会行事
  • 12:00~12:30 牛せり
  • 12:30~13:00 田植踊り
  • 13:00~13:30 棚くぐり
  • 13:30~14:00 代掻き(しろかき)
  • 14:00~15:00 太鼓田植
  • ※「お札納め」は翌日実施

受付のある公民館でパンフレットをもらい、メインステージとなる石神社前の田んぼへと歩く。コンビニも自販機も無いが、地元の婦人会が作ったおこわや惣菜などが売られている。田んぼには張られた水の中を泳ぐアメンボと丸々としたオタマジャクシ。5分ほど、オタマジャクシを棒でつつくミニゲームに興じる。

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行事に参加する地元の小学生。

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石神社前のメインステージ。カメラじいさんが多く、三脚がずらりと並ぶ。

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公民館横にあった塩原案内図。古事記の挿絵にありそう。

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キャノン砲。皆さん良いカメラとレンズを持ってらっしゃる。2台持ちで備える猛者も結構いる。

11:00からの開会式は、1時間も予定が組まれ何があるのか気になっていたが、市議会議員やどこどこ委員会の挨拶が続く続く。ステージ前にズラッと並んだ偉い方たちが、最後は一斉に熱射病からの田んぼへダイブ、みたいなオチなら最高なんだけど何事もなく終了。

開会式終了後は、公民館前で待機する牛、その飼い主、早乙女(花笠をかぶった女性)、サゲ(太鼓を持った男性)を眺める。皆、談笑し、これから始まる祭典を楽しみに待っているようだった。

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ノンストップで続く偉い先生方の挨拶。
「この田んぼがだーい好き!」の絶叫の下、目の前の田んぼにダイブする先生がいたら好きになるけどな。

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飾られた牛。背中にかけられた紫の布には「農宝」と書かれている。
「農家の宝」を意味しているそう。直球過ぎる造語。

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賑わう周囲を余所に遠くを見る牛。

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皆さん楽しそうでこちらも元気になる。左は早乙女、右はサゲと呼ばれる役。

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競りの様子。このあと行われる「代掻き」で、田んぼに入る順番を競っている。
先頭の「一番牛」の位置は54,000円で落札された。

12:30、「田植踊り」がはじまった。サゲが打つ太鼓と「ヨイソラ」と言う掛け声の中、田植えの動きを盛り込んだ踊りを早乙女が披露する。その近くで、早乙女にちょっかいを出すのが「ササラスリ」。滑稽な面をかぶり、ササラ(簓:竹や細い木などを束ねて作製される道具)と棒を擦りつつフラフラと歩き回る。

このササラスリ。持っている棒の形状と、早乙女へのちょっかい(棒で早乙女の尻などを突く)が気になり調べたところ、子孫繁栄を願う芸のようだ。ササラスリ自体、全国各地のお祭り等に存在しているようで、多少のエロで観客を盛り上げる色物の存在、のように思う。興味深い。

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ササラスリ。右手に簓(ささら)、左手には男性器を思わせる棒。

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サゲや早乙女を先導する天狗。その役割から「露払い」と呼ばれている。

13:00。牛の供養行事「棚くぐり」から、「代掻き」、クライマックスの「太鼓田植」へと続く。
石神社の下に組まれた供養棚を通った牛たちは、競りで決まった順番で田んぼへ入り、田をならす。この「代掻き」は、土を平らに慣らし、稲をムラなく生育させるための作業。今はトラクターでやるが、その昔は牛の仕事で、私の父(名前はまさかの"米造")曰く「どこにでもある当たり前の風景」だったそうだ。計11頭の牛は、田を歩き慣れていないため、この日のために練習をさせられたそうだ。

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「棚くぐり」の棚。左右に1台ずつ棚が立ち、一方には神職、一方には僧侶が座る。その間を牛が通る。c写真は棚くぐりが終わり、目の前の田んぼを眺める僧侶たち。

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代掻きが始まる。競りによって決められた「一番牛」から田に入る。

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「代掻き」中の牛たち。

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牛が田んぼから上がった後、最後の調整は人間が行う。

代掻きの様子。

この代掻き中、1頭の牛が暴れ一時騒然となった。足元の悪い田んぼの中を歩くのが嫌だったのか、急に走り出し飼い主を引きずりまわす牛。泥の飛沫を上げ、誰も近づけないほどの重戦車化した牛だったが、ただ1人飼い主の方は凄かった。引きずられ、振り回され、泥だらけになりながらも手綱を離さず、牛が落ち着くのをじっと待っている!嘘だろ!牛の足が1発でも当たろうもんなら大怪我必至の状況にあって、あの気合いには感服、格好良かった。

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落ち着きを取り戻した重戦車の横で、泥だらけになりながら笑う飼い主、いや男の中の男。

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牛舌でテヘペロな暴れ牛。

そしてクライマックスの「太鼓田植」がはじまる。太鼓を持ったサゲの頭取が上歌を歌い、早乙女はそれを受けて下歌を歌いながら苗を植えていく。早乙女の背後には、苗を渡す男性(苗下げ)と、手に持った棒で早乙女にちょっかいを出すササラスリ(2名)がいる。

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田植前、苗の塊を田んぼに投げ入れる

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歌を歌いながら田植えをする忙しい「早乙女」

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早乙女の後ろから苗を渡す「苗下げ」

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早乙女の後ろでちょっかいを出す「ササラスリ」

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歌に合わせて太鼓を叩く「サゲ」

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石神社から田んぼを見下ろす

太鼓田植、はじまりの様子

私の友達に、毎年ゴールデンウィークは田植えのために地元に帰る人がいる。家族総出でやるらしい。トラクターや田植え機が無かった時代は、家族だけでなく牛も、近所の人も総出でやっていただろうし、私の父(米造)曰く「それが当たり前だった」と。もう、大変でしかない。これだけ広い田んぼに1つ1つ苗を植えるなんてやってられない。だからこそ、昔の人は少しでも楽しく取り組めるよう、歌を歌うなど、工夫されてきたのだろう。

私はただおたまじゃくしと遊び、おこわを食べ、田植えの様子を眺めるだけの1日だったが、とても楽しく、また清々しい気分にもなれた。山と緑と太鼓の音に触れ、心が解放されたようだった。ただ、たった5時間外にいただけで顔が真っ赤になったので、もし4年後に行く時には帽子を忘れないようにしたい。

余談だが、カメラじいさんたちの場所取り抗争も見どころの1つと言える。「邪魔だよ!」「朝5時から場所取ってんだよ!」等あちこちで飛ぶ怒声に、見習うべき自己主張の姿を思いつつ、いかにして最前列を陣取るかと言うゲーム。今回、努めてニコニコしながら先頭を陣取ったが、私に文句を言うシニアはいなかった。笑顔は強いのだ。

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一足早く、牛は帰路についたようだ。お疲れ様でした。