ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

虎と牛と島津と太鼓。薩摩が誇る田園パレード「市来の七夕踊」2019

(2022年7月29日追記)
2022年8月7日(日)、3年ぶりに開催!作り物の踊りは無しも、今回をもって祭りは休止。もちろん行く!熱中症に気を付けましょう!(市来の七夕踊公式ホームページ)

(2021年7月12日追記)
コロナの影響で2021年も開催中止決定。しかし、コロナが治まれば来年は開催される様子!(市来の七夕踊公式ホームページ)

(2020年7月15日追記)
コロナの影響で2020年の開催は中止、休止は2021年まで延期(南日本新聞)」とのこと!

大事なことを先に言うと、「市木の七夕踊」は2020年、330回目の開催をもって休止となる(詳しくは「2020年開催をもって休止の宣言」を参照)。なので、行くのを迷っている方はぜひ行かれてください。この記事で1番言いたいのはそれです。
以下、「市木の七夕踊」の概要について調べたことと、2019年開催時の様子をまとめる。これから知る方や、来年行こうとされる方の参考になれば幸いです。

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これから始まる祭りを前に、田んぼの脇でひと休みする牛

「市来の七夕踊」とは

市来の七夕踊(いちきのたなばたおどり)は、鹿児島県いちき串木野市(旧市来町)の大里地区に続くお祭り。登場するのは、牛や虎などの作り物(つくいもん)、琉球王や大名などの行列物(ぎょうれつもん)、そして太鼓踊の3種。主役である太鼓踊が踊られる場所まで、それぞれが寸劇や舞いを見せながら大行列となって行進する。

400年の歴史を持ち、1981年には国の重要無形民俗文化財に指定されている。踊りの起源は、文禄・慶長の役にまで遡り、朝鮮での薩摩(島津兵)の活躍を聞いた市来の人々が思い思いの形で踊ったものがはじまりとされる。その後約90年の間を置くも、この地で進められた大規模な水田開拓が完成(1684年)した祝いに再び踊られ、以来豊作祈願と神への感謝を表すために踊り続けられている。毎年8/5~11までの間の日曜日に開催され、2019年の今年は329回目の開催だそうだ。

2019年8月11日。329回目となる市来の七夕踊の様子。

登場人物

人やそうでないものが登場し、下記の順番で大行列となって行進する。当日会場でいただいた、七夕踊保存会発行『速報七夕踊』(第壱拾参号・2019年8月11日発行)と、七夕踊保存会といちき串木野市教育委員会が発行した資料から、登場人物たちの説明を引用する。※写真には、2013年撮影時のものも含まれています

1. 鹿

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周囲に鳴り響く鉄砲の音(空砲)に、鹿は立ち止まり周りを見て警戒する
踊りは、三人のシカトイ(鹿捕り)の持つ鉄砲の音で始まります。鹿の中には、4人の青年が入り、ピョンピョンと跳ねながら走る動きと時々立ち止まって首を高くし、辺りを見回す動作や鉄砲に撃たれて苦しみ、シカトイに角で反抗する仕草など、みものです。

2. 虎

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文禄・慶長の役の際に、市来郷士の長野助七郎らが行ったとされる虎捕りを面白おかしく再現する
「トラがくっどー」の、トラトリ(虎捕り)の叫び声で、虎が姿を現します。トラトリは、身を隠しながら虎に近づき、隙を狙って槍で射止めます。トラトリは、射止めた虎の前で、分け前などを即興で面白おかしく相談しあいます。しかし、トラトリの「虎を捕っても油断のすんなー」の掛け声で、再び立ち上がり暴れ始めます。

3. 牛

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作り物の中で最も大きいのが牛で、中には16人が入り操る。以前は2~3頭出ていたと言う。
ウシツケ(牛使い)は、マエツケ(前使い)とアトツケ(後使い)の2人がいます。マエツケが「ゼイ、ゼイ」と言うと牛は後に下がり、時に後部を空中高く持ち上げます。これを「牛が飛ぶ」と言います。そして、マエツケの「コーじゃがそら~」の掛け声で鼻輪をとって顔をたたくと前に進みます。

4. 鶴

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作り物の最後を飾る鶴。1人だけで操るため、最もきつい役じゃないかと思う(頻繁に中の人が交代する)。
鶴の中には、一人青年が入り踊ります。鶴の足の踏み方にはコツがあり、大変難しいと言われています。餌捲きの後からついて行き、餌捲きが桶を叩き籾を蒔くと鶴は体をかがめ首を下げて餌を探す所作をします。

5. 琉球王行列

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摺金を擦るように打ちながら、不思議な体勢で踊る琉球
琉球王が島津義弘の戦勝を祝ってはるばる南海の島から貢物を持って薩摩を訪れ、島津氏の武運長久を祈願したものと伝えられます。行列の構成は、漢林王、中山三本やり、薙刀、笛、大音、中音、拍子木、銅鑼、摺金、三角旗、弓台持、王様、弓台持、御傘持、千本槍、小薙刀、となります。この行列では、銅鑼、摺金を持った踊り子が中心となります。この踊り子は、琉球人踊りを踊りますが、大変難しい役です。

6. 大名行列

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骨だけが残った大きな傘のようなものが馬簾。不思議なステップで前に進み、途中で仲間に馬簾を投げ渡してはまた進む。
奴道中ともいわれ、大名の参勤交代の様子を表したものです。「ドコイサー、ドコイサー」の掛け声で進む馬簾振り(バリンフリ)は、最も難しい役で、何回も稽古しないと一人前にはなれません。馬簾振りの跡には、オボロ、薙刀、お腰物持ち、はさみ持ち、弓台持ち、御傘持ち、槍持ちと続きます。

7. 薙刀行列

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薙刀は1~2mほどの竹の先に、小さい木に銀紙を張った刃を付けてある。
キレのある方が薙刀を振ると、その勢いで砂が舞う。
太鼓踊のヤッサの前と後につき、露払い、後払いの役をするのが薙刀行列です。女物の浴衣に色たすき、白足袋裸足の女装です。一列に並び小刻みに進みますが、これを粟踏みと言います。また、集落ごとに、薙刀の切り方、振り方が少しづつ違っています。

8. 太鼓踊

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太鼓踊を踊ることは大里地区に生まれた男性にとって1つの節目と言う。
青年団に入り、踊り手として選ばれ、厳しい練習を経て無事務め上げ、初めて一人前の大人として認められるそうだ。
一っ番ドンを先頭に、頭には美しい花笠を着けて、太鼓踊の登場です。提灯を円の中心に、円陣を組み各々の踊庭で踊ります。七夕踊りの主役で、各集落の代表として地区民の期待を担い、一週間の厳しい練習を経て本番に挑む。

1日の流れと開催場所

七夕踊は朝8時に始まり、夕方18時過ぎまで続く。と言っても、1日中ひたすら踊り続けるわけではなく、間に休憩を挟みながら計3回(※)に分けられる。時間で言うと、8時・10時・16時で、大里地区内の異なる集落で踊られる。
※厳密には20時からも踊られるが、太鼓踊のみで作り物と行列物は登場しない。 ※朝8時の踊りでは、作り物は顔見せ程度にしか登場しないため、フルバージョンを堪能するなら10時、16時が良い

各時間の踊りの場所と、駐車場は下記地図の通り。(特に駐車場は変更の可能性があるため、2020年に行かれる場合は、市来の七夕踊公式ホームページをご確認ください。)

市来の七夕踊(2019年)記録

朝8時(中福良集落:堀之内の庭→鶴ヶ丘八幡神社

市来の七夕踊の始まりとなる中福良集落の堀之内の庭に着くと、踊り手やその家族など、地元の方々で溢れている。賑やかで皆楽しそうだ。七夕踊りがこの地の方々にどれだけ愛されているかが、その表情から伺える。この庭では、円陣を組んで踊っている太鼓踊の周囲を登場人物たちが順に1周して終了。

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本日1回目の太鼓踊。踊り手の背後には人(家族?)が付き、暑さ対策のためうちわで扇いであげている

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庭の脇には作り物が静かに待機。

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大名行列の馬簾振り(バリンフリ)。片足を交互に上げながら、不思議なステップで進む。体幹が鍛え上げられている。

堀之内の庭での太鼓踊が終わると、すぐ近くにある鶴ヶ丘八幡神社へ歩いて移動し、そこで再度踊られる(ただし、作り物は来ない)。境内の中心に置かれた提灯周辺に射す光が美しく、ここでの七夕踊は一層神秘的に見える。10時近くまで踊られるため、急いで次の場所、門前集落に向かう。

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堀之内の庭から鶴ヶ丘八幡神社まで、各々が歩いて向かう(8分ほどで着く)

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七夕踊には関係ないが、カラスの作り物が吊り下げられていた。一瞬本物かと焦った(クリックでモザイク無しの写真を表示

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神社に上る階段。夢でも見ないような不思議な光景

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鶴ヶ丘八幡神社とその境内。提灯を中心に円陣を組み、踊られる

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花傘をかぶる踊り手。サポートを受けながら、頭から落ちないようしっかり装着する

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太鼓踊と共に行動する鉦打ち(カネンコとも呼ばれる)。
主に小学生の子が2人1組(計2組)となり、踊りに合わせて鉦を打ち続ける。

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境内の片隅に並んだ花笠

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太鼓踊の踊り手は「ヤッサ(役者)」と呼ばれる。1週間前から毎晩練習し、当日を迎える。

朝10時(門前集落:門前河原)

大里川沿いの広いスペースのため、七夕踊の細部を見るには一番良い場所と思う。それぞれの役割で踊る地元の方同士が冗談を言い合ったり、笑顔で大量の汗を流しながら行進する姿がまぶしすぎる、こちらも心が満たされる。ただし、炎天下に居続けるため、日焼けと日射病には要注意。12時ころ終了。

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門前河原の会場周辺には、のぼりや横断幕が設置される

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虎に襲われる直前の画

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虎を仕留めんとする虎捕り。
市来の七夕踊は、島津家から家紋を着けることを許された祭りだそうで、丸に十字が入った衣装が目立つ。

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鶴は1人だけで操る。重たい体を支え、舞うのは至難の業だと思う。そんな思いもあり、つい見入ってしまう。

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重量と注目を1人で背負う鶴の中の方。体力の消耗が激しいため、入れ替わる頻度も多い。なので色んな鶴が見れる。

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カスタム花笠(京都アニメーション仕様)も見かけた

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日陰で一休みする、作り物の中の方々

夕方16時(払山集落:払山の踊り場)

昼休憩を挟み、全登場人物が集まるものとしては最後の七夕踊りが始まる。行進は16時からだが、少し早めに行けば、田園風景の中ぽつんと待機する作り物に遭遇できる。周囲を田んぼに囲まれた中で見る七夕踊は、江戸時代にタイムスリップしたかのような気分も味わえてさらに良い。個人的には、ここで見る鶴の作り物が1番好きだ。18時ころ終了。

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これ以上無い田園風景。モノクロ写真にしたら明治時代と言っても通用しそう。

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待機中の虎。今なら、口の中を覗いても襲われる心配はない。

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虎捕りの方々。声を張り、身体を使って全力で虎捕りを演じる。
長年この役をやられているそうで、言わば師匠だ。師匠たちの周囲は人で賑わう。

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牛の後方で牛を操るアトツケ(後使い)。

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重い身体を1人で支えながら、低い姿勢で舞う鶴。巧みな足さばきも見もの。

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静かに舞う鶴を見ていると、心が洗われるようで泣ける。
写真に写っていないが、鶴の前で籾殻を蒔く餌捲きの姿がとても凛々しい。

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太鼓踊。払山の踊り場が最後となる作り物や行列物は、太鼓踊の円陣の外周をグルっと回り、この年の役目を終了する。

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鶴撤収。(心の中で)泣きながら見送った。

夜20時(中福良集落:堀之内の庭)

朝8時と同じ場所、堀之内の庭で踊り納め。作り物や行列物は登場せず、太鼓踊だけが行われる。20時45分ころ終了。丸一日踊り続けて疲れているだろうに、見ているこちらが「やり遂げた」と思うほど熱のこもった踊りだった。花笠を脱いだヤッサたちが見せた笑顔が最高だった。

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夜8時、堀之内の庭。

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2019年の「市来の七夕踊」最後となる太鼓踊。お疲れさまでした。

2020年開催をもって休止の宣言

冒頭で書いた通り、市来の七夕踊は2020年の開催を持って休止が発表されている。七夕踊保存会発行『速報七夕踊』(第壱拾参号・2019年8月11日発行)にはこのように書かれている。

現構成での七夕踊りに一定の区切り
現構成での七夕踊をこれ以上維持、継続し続けることは困難との判断から今年と来年二ヶ年っで一応締めくくり、その後は当面の間休止することと致しました。
しかし、代々の先人たちが育んで来られた国が指定した重要無形民俗文化財、大里の誇れる地域の宝、財産です。これからも街づくりの一環として、大里の方々のご理解、ご協力のもとに新しい形での七夕踊の創作が望まれます。

前回訪問した2013年にも、この祭りの主催者である青年団の人数が減り続けており、存続が厳しい話は聞いていた。がまさか、実際にこのようなことになるとは。こちらの資料(P3~24)には、これまでの慣習を変えたり、大里地区外の人々と連携を取ったりと、七夕踊存続のため様々な手を打ってきたことが書かれている。その末の休止の決断に、大里地区の方々の無念を思う。同時に、この大好きな祭りのために、自分も少しでもお返しをしたいと思い今回この記事を書いた。

市来の七夕踊がこの先どうなるかはわからないが、これまでと同じ内容での開催は2020年が最後になるかもしれない。祭りの当日しか行けないため、手伝いなどの参加は難しいだろうけど、2020年も必ず行って存分に楽しませてもらおうと思う。

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手ぬぐい(500円)と、いただいたうちわ。最高にかわいい。

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良い天気に恵まれて良かった。2020年もそうなりますように。

<参考サイト・資料>