ホルモンでお食い初め

広島在住、30代男性会社員のお食い初め(初体験)記録

益子に広がる日本の原風景

2017年末、日本民藝館展の訪問に併せて念願の益子に行ってきた。なんせ濱田庄司が暮らした地。焼物好きとして1度は訪れたかった場所なのだ。
益子焼の代名詞とも言える柿釉も好きだ。土地の歴史が感じられる焼物(その土地の土を使い、そこで受け継がれる装飾、技術がある等)に魅力を感じるため、柿釉がどのように使われているか、どんな品に出会えるかを楽しみに益子へ向かった。

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偶然お会いできた濱田晋作さん。

秋葉原から出ている高速バス「関東やきものライナー」で向かう。渋滞も無くスムーズに進み、2時間半かからず益子駅に到着。駅で自転車を借り、いざ益子焼の中心街へ。ちなみに、自転車は借りておいて正解だった。共販センター周辺(半径500m程度)を周るだけなら不要だが、他の場所にも行くのであれば必須、歩きだと時間がかかり回りきれない。

当日の行程は、益子駅 → 日下田藍染工房 → 共販センター → 旧濱田庄司邸(工事中だった) → 台湾まぜそば屋(共販センター敷地内、美味かった)→ 益子参考館 → 共販センター → 金物の店つかもと → 益子駅となった。11時の益子駅着から帰りのバスの出発まで約5時間、予想に反して全然時間が足りず陶芸美術館にも木村三郎窯も行けなかったのが心残り。

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秋葉原駅前から「関東やきものライナー」に乗車

今回、汁碗1点、面取のマグカップ1点、湯呑み1点を購入した。マグカップは室田嘉一郎さんという方のもので、サイズも形も良く、手に取って触りたくなるような温かみがあった。ただ、焼き物に関してはこれ以外ではピンと来るものを見つけられなかった(感度が鈍いのだ)。けれど、焼き物以外では印象に残る場所(2箇所)に出会えた。

1つは日下田藍染工房。 立派な茅葺き屋根の建物に惹かれて立ち寄ると、藍の液体が入った甕がずらりと並ぶ圧巻の景色。湯気が立っており、聞けば藍の発酵を促すために、甕と甕の間に設けた火床と呼ばれる穴の中でおが屑などを燻しているそうだ。丁度外から差す光がこの湯気を照らし、神々しさすら感じた。建物の奥には工房があり、布に泥を絞り出す作業(藍を染めたくない箇所に泥を塗る)をしていた。ちょっとだけのつもりが、気付けば1時間近くお邪魔してしまった。

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藍甕が並ぶ甕場。後光が差している。

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染めたくない箇所に泥を塗る作業。仕事中にも関わらず丁寧に説明していただいた。

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栽培された綿花を干している。

もう1つは金物の店つかもと。益子駅と共販センターの中間地くらいにある金物屋で、自転車でぶらぶら走っていたところ店頭に沢山の編組品が見えたので立ち寄った。そもそも金物屋自体が珍しい。金物屋が存在すると言うことは、この周辺では昔ながらの暮らしが残っていると言うことだろう。包丁、鍋、箒などの生活用品と、あとはカゴやザルなどの編組品が店内所狭しと並んでいた。美術工芸のように扱われる様を目にすることも少なくない中、この店の編組品はそれとは無縁で、実際に使われることしか意識していないようだ。だから値段も安く、作りも丈夫。民藝や用の美とはこう言うことか、と勝手に感心した。

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たまたま見かけた金物屋。

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編組品のワンダーランド。飾るためでなく、使うためのものとして売られていることが新鮮で、嬉しい。

この他にも益子参考館では濱田晋作さん(濱田庄司氏の息子)に偶然お会いできたり、ある益子焼の商店では客そっちのけで電話する店番女性の貴重な話(店主が不倫しているらしい。「あの男は良い人じゃない、独身で子供がいないから優しくしているだけよ!」)に舌鼓を打たせてもらったりと、満喫できた。

益子焼しかり、藍染工房しかり、金物屋しかり、目の前に広がる春を待つ乾いた田んぼしかり、益子は僕にとって日本の原風景を感じさせてくれる場所であった。今では見ることが難しい景色であり、今後失われていく景色でもあると思う。そう遠くならないうちにまた行きたい。

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益子参考館の4号館(濱田庄司別邸)

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益子参考館にあった苗代川の半胴甕。黒薩摩では半胴甕が1番好きだ。鹿児島の長島美術館に多く展示されている。