ホルモンでお食い初め

広島在住、30代おじさんのお食い初め(初体験)記録

若尾文子さんにファンレターを送る

生まれて初めてファンレターを送った。相手は、女優、若尾文子さん(以下敬称略)。1933年生まれで、活動の全盛期は1960年代。そのため3年前までは、名前は知っているものの作品を見たことは無い、という状態だった。2016年のある日、西川美和監督がどこかで紹介して以来気になっていた「しとやかな獣」を、たまたま上映していた近所の映画館で見た。今までに無いほど気分が上がった。それが作品の面白さに対してか、若尾文子の美しさに対してか、その時は分からなかった。ので、翌日も若尾文子主演の別の作品(その夜は忘れない)を見に行った。高揚は、若尾文子が要因だとわかった。夢中になるものを見つけた瞬間だった。

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以来今に至るまで、若尾文子やその周辺の方々の映画、本などに触れては楽しんでいる。毎度美しさに心を奪われつつ、いち人間としての若尾文子の姿に思いを馳せている。好きな役者やアーティストは沢山いるのに、なぜ若尾文子に対してだけ知りたい欲求が強いのか。理由は「若尾文子の美しさに惹かれているから」しかない。そのうえ、活動の全盛期から半世紀近く経った今では、役から離れた実際の若尾文子を知る手がかりがあまりなく、これも思いを持続させるエネルギーになっている。

そんな若尾文子に、2017年8月7日手紙を送った。ここまで好きになった方との(一方的だけど)思い出を作りたかったからだ。何かのイベントでお見かけできるならファンレターは書かなかっただろうが、2016年12月のトークイベント以降公の場に立たれておらず、この先もチャンスがあるかはわからない。そう思うといてもたってもいられなくなった。

そんな気持ちとは裏腹に、ペンは一向に進まなかった。伝えたい想いがあってのファンレターではなく、思い出を作りたいという自己都合の動機のため書けないのだ。そのうえ相手は、お正月に4万2千通のファンレターが届いた大スターである。何か楽しませる工夫をしないと…と考えると余計に書けなくなってしまった。若尾文子に対して思っていることを書き出すも、美しいとか美しいとか、美しいとか。うーん、駄目だ。

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「その夜は忘れない」スチール

3ヶ月の放置期間を含め、書き始めてから5ヶ月が経ち、さすがにまずいと自分を追い込むことにした。まずファンレターと一緒に送るスチール写真をヤフオクで買った。あわよくば、サインをいただけるかも、というヨコシマ作戦だ。次にファンレターの送り先をKADOKAWAに問い合わせた(自分でも散々調べたがわからなかった)。無事送り先もわかり、あとはもう書くしかない。当初は何か楽しませる工夫を…と考えていたものの、とにかく書くことを最優先に1ヶ月かけて仕上げた。

キネマ旬報2015年6月下旬号に、若尾文子のファン・レター研究として、どんな傾向のファンレターが届くかが紹介されている(オリジナルは1956年3月下旬号の掲載で、本号はそれを再掲したもの)。これによると、最も多い平凡タイプは「自分が大の若尾文子ファンであることや、若尾文子の魅力をめんめんと称える内容で、サインをもらうためのブロマイドを同封」だそう。まさしく僕のファンレターだ。

話は逸れるが、1955年に発行された若尾文子の著書「歩みの中のらくがき」の中には、本人自ら送られてくるファンレターについて解説する章がある。ここでは、真偽のほどはわからないが、送られてきたファンレターをそのまま掲載している。例えば以下のようなものである。

「文子さん、ぼくと結婚してくださいませんか。ぼくは現在失業中の身の上ですが、これは勤務先の会社が破産したためであって、ぼくの責任ではないのです。ぼくは、かなりの経営的手腕を持っています。ぼくが、文子さんのマネージャーになれば、お互いに、助かると思います。(一部省略)
なお、文子さんに恋人があって、ぼくとの結婚を断念しなければならぬような時でも、マネージャーの方だけは、よろしくお願いいたします。ぼくはアメリカ生れのインテリで、紳士ですから、文子さんが結婚をことわってきても、うらみに思ったりすることは絶対にありません。(一部省略)
それでは、よろしく、たのみます。マイ・デイア・ダーリング・アヤコ!」
「どうして会ってくれないのですか?あんただって、長谷川一夫さんがウンと言わないのに、むりやり押しかけていって、女優になったんじゃありませんか。(一部省略)また、押しかけてゆきますからね。わたしの気持にも、なってみてちょうだい。ひと晩じゅう、あんたの家のまえに、すわりこんでいるのも、ラクじゃないわよ。けっこう寒いのよ。いいかげんに、わたしの熱意をくんで、会社のほうへ、女優としてスイセンしてくれたら、どうなの?」

昔のファンはヤバい(悪い意味で)。今では考えられない内容だけど、若尾文子はこれらのファンレターを「おもしろいもの」として紹介している。

2017年8月7日に発送してから約8ヶ月。残念ながら返事はないが、自分が書いた文字を若尾文子が読んだかもしれないと思うと感無量だ。自分にとって最初で最後のファンレターになろう。良い思い出をいただいた。女優若尾文子の活動の全盛期を知らない、とは書いたが、出演作を見れば、彼女の最高の輝きをいつでも見ることができる。若尾文子を知れて良かった。これから先もずっと、その美しさとともに作品を楽しんでいきたい。

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「帯をとく夏子」スチール