神戸の一角で昭和を歩く(平野市場、伊勢屋)
下町風情を色濃く残す地域が神戸にあると聞き、神戸市兵庫区にある平野商店街に行ってきた。自分が子供だった約30年前の町並みのような懐かしさを一帯から感じたが、今まさに解体中の「平野市場」と、年季の入った建物でひっそりと営業を続ける食堂「伊勢屋」には衝撃を受けた。昭和に放り込まれるような景色。他では見られず、すぐにでも無くなりそう…そう思うと、なかなかその場を離れられなかった。
解体が進められる「平野市場」
平野商店街へは神戸駅から車で10分。恐らくだがバスもあるだろうし、歩いても20分程で行ける距離(最寄駅の大倉山駅からなら15分程度)である。神戸駅を降りると、三宮や元町のような華やかさは消え、駅前では地元の方がのんびりとした時間を過ごされていた。
神戸駅前にて。毎日ハトにエサをあげているのだそう。
ストレートに注意する標識。いつからあるのだろう。
商店街近くのコインパーキングに車を停め散策開始。早々に、平野小学校裏に建つ民家に歴史を感じる。小学校に人の姿は無く、調べると2015年に廃校になっていた。休日15時頃の平野商店街は、人の姿をぽつぽつと見かける程度の賑わいだったものの、古書店やパン屋、スーパーなど営業しているお店は少なくない。商店街を東西に分ける有馬街道は交通量が多い。
解体進む「平野市場」
商店街の一角に見えた解体中の建物と工事現場。ここが1947年に誕生、2010年10月31日に閉鎖された「平野市場」で、入口の1つがここにあった。閉鎖後も一部店舗は同じ場所で営業を続けていたようで、Googleストリービューで確認すると、少なくとも2017年6月までは解体は進んでおらず入口も確認できた。とすると、解体が本格的に進んだのはこの1年以内となる。
2018年4月30日。解体が進む平野市場を写す。
2009年8月の様子。「平野市場 入口」と書かれたテントや、両脇の店舗が営業していることがわかる。
2013年9月。この4年の間に、両脇のお店は閉店したように見える。
2015年4月。2013年からの2年間、平野市場の入口には特に変化は見られない。
2016年4月。「平野市場 入口」のテントが外されている。
2017年6月。長い期間シャッターが降ろされていた入口両脇の店舗にブルーシートがかけられている。
平野市場の裏手に回ってみると、解体現場の様子が一望できた。数軒の建物を除き、ほとんどが解体され、整地も進められている。2006年や2013年に写された市場の写真を見ると、いくつもの店が密集し、アーケードに覆われた空間だったことがわかるが、今現在の姿からは想像もできない。市場について調べる中で、この場所に思い出を持つ方々のこのようなコメントを見ることができた。
市場内は死にかけてます。人通りありません15年前は、夕方になると歩くのも困難な程混んでたのに(涙)
※2002/11/06(水)の投稿
超ローカル。神戸市兵庫区平野交差点近郊!より
解体が進む平野市場の様子。
建物内に落ちていた金券。有効期限はH5(1993年)12月31日まで。
平野市場の店舗配置図
写真に写る「はしもと」は揚げたてのフライを食べさせてくれる名店だそう。訪問時は定休日だったが、現在も営業中。
なお、下記の記事によると、平野商店街と平野市場は別々の組合が管理してる模様。↑の写真で言うと、ブルーシートを境に市場と商店街が分けられ、「はしもと」は平野商店街側とのこと。
ブルーシートがかかっている部分までが平野商店街、以降が市場協同組合の敷地で、この再開発は共同組合側なのでうちは関係ないよ、とのことです。ブルーシートの奥で取り壊されたのは、ほとんどの店がシャッターをおろしていたもののいちおう形だけは残っていた平野市場協同組合の入り組んだ路地ですね。
神戸市:ごろごろ、神戸3「第1回 ゴールデンウィークの過ごし方」神戸市:ごろごろ、神戸3「第1回 ゴールデンウィークの過ごし方」より
そのままの姿であり続ける食堂「伊勢屋」
平野商店街の南東、トーホーストアの裏側にそのお店はあった。食堂「伊勢屋」。平野地域の出身者による下記のコメントからは、その存在が驚きと涙を誘うものになっていることがわかる(しかも2003年の時点で)。
一つオドロキ。食堂「伊勢屋(平野市場南側入口の東角にある)」がまだ営業してました。スゴイです。
周囲にあった店が全盛を誇り、廃れ(涙)、閉店していった今にあって、あそこはまるで時が止まっているかのように。店の人も客も止まっているかのような。かなり昔、一度だけ入ってうどんを食べたことがある。今入って食べたら泣いてしまうかも。いろんな意味で。(当方1968生)
※2003/04/04(金)の投稿
超ローカル。神戸市兵庫区平野交差点近郊!より
食堂「伊勢屋」外観。営業を始めて60年以上になると言う。
店内にはおかもちがたくさん。以前の賑わいがうかがい知れる。
狭い空間に2人席×2、4人席×1。先客1名は競馬中継をTVで見ながら少し早い晩酌をしていた。
中華そば370円。儲けは無いだろう。特別美味しいとは言えないが、最高にうまい。
神戸に対しては、華やかで、外国文化を感じさせる人と街のイメージがあったが、この平野地域にはそんな要素は見当たらなかった。良い意味で裏切られたし、期待以上の昭和空間だった。この先平野市場はどう生まれ変わるのか、伊勢屋はいつまで営業を続けてくれるのか。またいつか神戸を訪れる時まで楽しみにしておきたい。