ベタの繁殖と稚魚成長の記録(動画あり)
「バイエルンの靴打ち踊り」と聞いてピンと来る方がいたら、あなたは余程の熱帯魚好きだろう。私がベタを飼い始めるきっかけになった本『ソロモンの指環―動物行動学入門』によると、アルプス地方の熱帯魚愛好者たちは、ベタの繁殖の様子を「バイエルンの靴打ち踊り」と呼ぶそうだ。ユネスコ登録されてそうな風格すら漂うが、どんな踊りか想像できなさ過ぎて笑える。バイエルンジョークか。
2019年1月、そのバイエルン伝統の靴打ち踊りを見ることができたので記録する。
生後20日の稚魚の様子。200~300匹程度いる。
1. 夫婦紹介
オス。以前調べた分類からすると、プラカットの青白マーブル。ヤフオクで購入。あまり感情が見えないタイプで、フレアリングはしない。エサにも飛びつかずゆっくり食べる。当初泡巣は一切作らなかった(メスの姿を見せ続けたら作るようになった)。体長7cm。繁殖時の推定年齢は6〜8ヶ月。
メス。プラカットの青白マーブル。ベタ界隈で有名な「高知熱帯魚サービス」から購入。好奇心の塊のような個体で、水槽に近付くと飛びかかってくる。超かわいい。購入当初真っ白だった体は、2ヶ月後にはほぼ青色に染まっていた。体長5cm。推定年齢は7~9ヶ月。
2. 繁殖の記録
2-1. 準備(用意したもの)
繁殖に向けての準備として、まずは必要になりそうな物を用意した。用途別に「水槽設備」、「エサ関連」、「掃除関連」の3つに分ける。普段の飼育時に使っているものが大半だが、それ以外は主に100均で購入した。
水槽設備
30cmスリム水槽を使用。水深は浅めの13cm程度で、水量は約8L。繁殖後は換水が難しくなるため、ごく弱いエアーでスポンジフィルターを動かした。水温は26度。
水槽(30cmスリム水槽) / LEDライト / 水温計 / スポンジフィルター / エアポンプ / 超強力磁石 / 水草(アナカリス、サンショウモ)/ 発泡スチロール / ヒーター(温度変更可能なもの)/ プラスチックケース(網目)
エサ関連
ブラインシュリンプを孵化させるための道具と、稚魚に与えるエサを購入。下にあるもので、リンクがされていないものは全て100均で揃った。
ブラインシュリンプの卵 / タッパー / メッシュカップ / 塩(天然塩)/ スポイト / 自転車のライト / エサ(キリミンベビー、ヒカリベタ アドバンス、乾燥赤虫、咲ひかり)/ すり鉢 / コショウ入れ / 計量カップ(500ml)
沸かしたブラインシュリンプの塩水を洗い流すためのメッシュカップ。
生後3週間後からはブラインシュリンプをやめ、これらのエサをを与えた。
稚魚の口にも入るよう、すり鉢で粗挽きの粉状にし、それをコショウ入れに詰めて朝晩与えた。
掃除関連
普段の飼育時に使っているものだけで事足りる。メッシュカップは掃除の時にも使った。
プロホース、バケツ、クリーナースポイト、激落ちくん、ピンセット
換水時、プロホースのままだと稚魚も吸い込むため、吸水口にメッシュカップでフタをする。
(画像のベタはもうほぼ大人ですが)
2-2. 繁殖、産卵
オス、メスとも、我が家に来てから2ヶ月は平穏に過ごしてもらった。それぞれ小さなプラケースに約2Lの水を入れ飼育。オスはフレアリングせず、泡巣も全く作らなかったが、お互いの姿が見えるようプラケースを隣同士に置いたところ、1週間後には泡巣をつくるようになった。
このタイミングでオスを30cm水槽に移し、1週間慣らした後、同じ水槽にメスも投入。ただし、お互いに接触できないよう、水槽の内側にサテライトのように別のケースを入れ、姿だけは見える状態で1週間を過ごしてもらった。そして2019年1月19日、メスをケースから取り出し混泳開始。
実際に使った水槽とサテライト用ケース。ケースは網目状で、安全にお見合いができる。
ケースと水槽は、100均にあった超強力磁石で固定。
以下は、混泳開始から約5ヶ月間の記録である。先にそれらを動画でまとめたものを紹介する。
2019年1月19日
混泳開始。オスの、メスへの攻撃を心配していたが、全くと言っていいほど追い回すことはなかった。以前繁殖を試した時とは大きく違う。お見合いの期間を十分にとったことも関係するかもしれないが、一番の要因は非攻撃的なオスの性格だと思う。混泳後も、オスは泡巣をつくり続け、メスは水槽内を自由に泳ぎ回っていた。どちらかと言うと、メスのほうがオスに対してアプローチを取っているように見えた。
2019年1月20日(生後0日)
混泳開始から約18時間が過ぎたAM09:30、繁殖開始。開始後30分は、交尾はするものの出てこなかった卵だが、以降は徐々に出始めるようになった。交尾直後、15秒ほど気絶するメスをよそに、オスは水槽の底に沈む卵を急いで回収する(口に含む)。回収した卵は水面に作った泡巣に吐き出し、オスはまた卵が落ちていないか水槽内を探し始める。探し終わったらまた交尾をする。
知恵の輪のような交尾だな。
交尾と交尾の間隔は約5分ほどで、1度に10~15個ほど卵を産む。これを約1.5時間の間に何度も繰り返す。繁殖が始まってから約2時間が過ぎたAM11:30、メスがオスのいる泡巣に近づかなくなり、何となく繁殖の終了を知る。ここでメスを水槽から取り出し、オスによる数日間の子育てが始まる。 オスは泡巣の下から離れず、時折卵を口に含んでは、また巣に戻すを繰り返していた。
メスが産み落とした卵をすぐに回収にかかるオス。
意識を取り戻したメスも同様の動きを見せたが、ここは個体差があり回収しないメスもいるそう。
回収した卵を泡巣にくっつける。推定200~300個。
2-3. 生後1~10日
2019年1月21日(生後1日)
朝は動きの無かった卵だが、夜帰宅すると一部は孵化し、小さな稚魚が泡巣にぶら下がっていた。泡巣から落ちた個体はオスがすぐさま口でキャッチし、泡巣に戻してあげている。
2019年1月22日(生後2日)
ほとんどの卵が孵化した。体長は2mmほど。まだ泡巣にぶら下がり、自分の力で泳ぐ稚魚はいない。
泡巣にぶら下がる稚魚。と、その奥で稚魚を見守るオス(父)
食卵の可能性もあるそうで、産卵後から照明は点けっぱなしで、エサも与えていない。
結局、オスは約90時間休まずに世話をし続けた。頭が下がる。
2019年1月24日(生後4日)
稚魚のお腹に蓄えられていた栄養は孵化から3日程度でなくなる、と言うことで、生後4日からブラインシュリンプを与え始めた。はじめはあまり反応が無かったが、1時間後に覗くと8割ほどの稚魚のお腹がオレンジになっていた。念のため、インフゾリアを沸かせるため指で潰した水草を追加投入。
ブラインシュリンプを食べ、お腹がオレンジになった稚魚。
ブラインシュリンプは皿式で沸かしている。
2019年1月26日(生後6日)
朝と夜の1日2回ブラインシュリンプを与えている。水槽が汚れてきたが、稚魚を潰しそうで掃除できない。水槽内に溜まるゴミは、毎日クリーナースポイトで注意しながら吸い出している。
一回り大きくなった気がする。それでも体長は3mmほど。
2019年1月27日(生後7日)
足し水こそしているものの、3週間近く換水していない。スポンジフィルターがあったから救われている命かもしれない。水質はもはや限界で、帰宅したら全滅していた…みたいな悪い想像をここ数日繰り返していたので換水した。メッシュカップでプロホースの給水口にフタをし、3L換水。
2019年1月29日(生後9日)
写真ではわかりづらいが、明らかに大きくなっている。体長は3mmほどから変わりないが、体の厚みが増している。
2-4. 生後11~30日
2019年1月31日(生後11日)
変わらず、朝と夜の1日2回ブラインシュリンプを与える。日々のゴミ取りに加え、この日は1Lほど換水。
水槽内に舞うブラインシュリンプと稚魚。
2019年2月3日(生後14日)
個体ごとの体長の差が出始めた。大きいものは6mm、小さいものは3mm程度。小さい個体は、確かに餌食いに勢いがない。稚魚を潰す心配も減ってきたので、水槽の前面のみ掃除。5L換水。初めて死体(2匹)を見つけた。
生後2週間が経った。2分の1の換水にも、調子を崩す様子はなかった。
2019年2月5日(生後16日)
稚魚の体に、両親が持っていた青色が出始めた。多くは黒っぽい青だが、一部白もいる。大きな稚魚は体長1cmほど。
2019年2月12日(生後23日)
ここまでブラインシュリンプを与え続けてきたが、この日から人工餌に切り替える(ブラインシュリンプだけを与え続けると、ベリースライダーになりやすいとの説がある)。上の「準備(用意したもの)」で紹介した餌をすり鉢で潰したものを与えたが、全然食べてくれない。
2019年2月13日(生後24日)
この日も人工餌の食いが良くない。ブラインシュリンプを並行して与えることも考えたが、ブラインシュリンプの卵の殻を人工餌と間違って食べられるのは嫌なので、心を鬼にして人工餌一択に決める。昨日よりは食べてくれた。面白いのは、体の大きな個体ほど、人工餌への順応が早い傾向が見えること。
2019年2月14日(生後25日)
人工餌を積極的に食べているのは全体の2割ほど。お腹の色が変わっているのは全体の7割ほど。あまりエサを食べないため水槽の底にエサが溜まっており、水質悪化を速めているように思う。
2019年2月15日(生後26日)
この日から稚魚の死体が多くなる。朝4匹、夜10匹の死体を拾う。腹がぺしゃんこになっている個体が多い。一方で全体の2割ほどは人工餌に慣れたようで食いつきが良い。
ブラインシュリンプに慣れているためか、底に落ちたエサへの反応が薄い。食べ残しのエサが底に溜まり、水質を悪化させている。
2019年2月17日(生後28日)
この2日間で約80匹が死んだ。
※この当時、人工餌を食べないことが第1の死因と考えていたが、この記録を書いている現時点ではそれが間違いだったと言える。餌も要因ではあろうが、第1は水質の悪化だ。現に、大量に換水した翌日は死体が減っていた。この当時はそこに気付けていなかった。
2-5. 生後31日~
2019年2月20日(生後31日)
生まれてからちょうど1ヶ月が経った。人工餌をよく食べる個体の中には、体長が2cmを超えるものも現れ始めた。
ベタの平均寿命を2年、人間の平均寿命を80歳とすると、生後1ヶ月のベタは人間で言う3歳4ヶ月の赤ちゃんだ。
2019年2月23日(生後34日)
人工餌に切り替えて約2週間。その間に130匹以上が死んだ。最初はお腹がぺしゃんこの個体が亡くなっていたが、その後は人工餌をよく食べていた大きな個体も死に出したため、水質に問題があったことが分かった。毎日ゴミ(糞)取りと、500mlほど換水していたが、体が大きくなった稚魚に対して、それでは不十分だった。
一部の個体は、しっかり色が出始めた。
2019年2月25日(生後36日)
毎日10匹以上死んでいたが、この日でその悪い流れが止まった。死ぬ個体がいなくなった。前日やった水槽内の掃除と、80%近い換水が効いているように思う。稚魚は半分以上に減ったが、それでも100匹以上はいる。
2019年3月3日(生後42日)
個体差はあれど、体がさらに大きくなってきた。大きいものは4cm近くまで成長している。餌を食べる量も増え、これまでの1.5倍を与えるようにした。比例して、糞の量もヤバいことになっている。色々なところから成長を感じる。成長に伴い、水深を13cm → 17cmと少し深くし、水量は10Lになった。
掃除と換水の様子。ここまで大きくなると、稚魚を潰す心配も無い。
2019年3月6日(生後45日)
調子が良い。ここまで育った稚魚は、浮上性、沈下性関係なくエサを食べる。水槽の底をキレイにしておかないと、ゴミまで食べてしまいそうで心配。毎日1Lの換水と糞取り。週1で6Lほどの換水と水槽内の掃除(スポンジで簡単に拭くだけ)。
2019年3月10日(生後49日)
赦しを請いたくなる過密ぶり。丸1日家を空けたが全く問題は無さそうだった。ただ、底に溜まる糞の量が少なかったので、不在中食べていたかもしれない。
2019年4月14日(生後84日)
生後約3ヶ月。青色の体色ばかり目立っていたが、白ベースの個体も現れ始めた。成長する中で、一部の個体は色が変わっている。白ベースは全体の4分の1ほど。
両親が持つ青、白が体色に現れた。ごく一部の個体に、赤も見られた。
2019年6月8日(生後139日)
生後5ヶ月が過ぎた。かねてより申し訳なさを感じていた過密問題を解決すべく、30cmから60cmの水槽にサイズアップ。体長は大きいもので7cm、小さいものだと2cm程のもいる。約70匹生存。
生後5ヶ月。人間年齢で言うと16才程度。あと1ヶ月もしない内に繁殖適齢期に入る。
子供紹介
ヒレの形状は両親と同じく全個体がプラカットとなった。色は、両親が持つ青と白をほとんどの個体が受け継いだが、両親に見られなかった赤を持つものも一部で現れた。模様は、青のソリッドカラーが5割、両親同様の青白マーブルが3割、残り2割は青白黒のファンシーなどであった。
繁殖~生育の過程で学んだこと
今回の経験で学んだことは下記の通り(あくまで私個人の認識です)。
- 水深は浅めが良い。産卵時、オスが卵を拾いに移動する負担を減らすため。水深を深くすると、稚魚がベリースライダーになりやすいとの情報もある。
- 毎日ブラインシュリンプを沸かすことは、思ったほど手間ではなかった。
- 産卵後1週間ほどは換水しづらいため、フィルターを使ったほうが良い。稚魚を吸い込まないスポンジフィルターが良い。
- 稚魚が大きくなるまでは換水しづらいため、水量の入る大き目の水槽(40cm以上)を使ったほうが良い。
- 稚魚の数をあまり増やしたくない場合は、繁殖途中でメスを取り出し、産卵数を調整する。
- 同じ水槽で育った個体は、少なくとも生後3ヶ月は喧嘩をしない。
- 同じ水槽で育った個体は、生後6ヶ月が経っても過密水槽であれば喧嘩をしない。
- 同じ水槽で育った個体でも、過密水槽でなければ生後4ヶ月が過ぎた頃から小競り合いをする。
- オスに泡巣を作らせるには、メスの姿が常に見える位置に水槽を置くことが有効。
- エサを食べ始めてからは基本毎日糞取りが必要。稚魚の数が多いため、エサの量も糞の量も多く、すぐに水が悪くなる
- 買って良かったものは、100均の網目状のケース+超強力磁石と、換水時にも使えるメッシュカップ。
参考サイト
今回も沢山のサイトに情報を教えていただいた。ありがとうございました。